若手が技術職を辞める前に、企業が見直したい「稼げるまでの時間」

「技術を身につければ、将来は安定する」

企業が若手にそう説明しても、本人からすると、その「将来」が何年後なのか分からないことがあります。

就職したばかりの時期は、仕事を覚えるまで時間がかかり、先輩について現場を学び、資格を取り、少しずつ任される仕事を増やす。

技術職では珍しくない育成の流れなのですが、それが若手にはなかなか伝わらない。

短期のサービス業なら、働いた分の収入をすぐ得られますし、フリーランスなら、自分の技術を直接仕事につなげられる可能性があり、働く時間や場所を自分で調整しやすい仕事もあります。

すると、「何年もかけて一人前になる」という企業側の時間感覚と、「今の収入や働きやすさ」を重視する若手の時間感覚がぶつかってきます。

ここで考えたいのは、若手をどう引き留めるかだけではありません。

企業が用意している「技術を身につけるまでの道のり」そのものが、若手から見ても魅力的になっているか。

この視点から見ると、離職対策は給与アップだけでは終わりません。

退職届

技術職の若手にとって「数年後」は遠い

技術職の仕事には、経験を積まなければ任せられない業務がありますし、入社直後から高度な仕事ができるわけではありません。

最初は補助的な業務から始まり、仕事の流れを覚え、失敗を経験しながら対応できる範囲を広げていく。

企業からすれば、これは必要な投資なのですが、若手側から見ると事情は異なります。

たとえば、現在の給与に大きな不満があり、生活を少しでも楽にしたいと考えている人に、「数年経験を積めば給与が上がる」と説明されても、それだけでは弱い。

若手にとって「数年後に上がる」という未来より、「今月いくら手元に残るのか」のほうが具体的ですし、理解しやすい。

ここに、技術職特有の難しさがあります。

技術を身につけることには将来的な価値があっても、その価値が給与として表れるまでには時間差があります。

一方、短期的に収入を得やすい仕事では、その時間差が小さく済むこともあります。

若手が比較しているのは、単純な年収だけではなく「努力してから報われる仕事」と「働いた直後に収入になる仕事」の違いも比較対象になっています。

「初期段階の耐性不足」だけでは説明できない

若手が数カ月で辞めると、「仕事がきついことに耐えられない」「最近の若者は我慢が足りない」といわれることがありますね。

もちろん、仕事とのミスマッチや、現場に入って初めて分かる厳しさが離職につながるケースは考えられますが、それだけで片付けてしまうと、企業側が見直せる部分を逃してしまいます。

問題は、若手が厳しさに耐えられるかどうかだけではなく「この厳しさを乗り越えた先に、自分に何が返ってくるのか」が見えているか。

ここが曖昧なままでは、目の前の負担だけが大きく見えてしまいます。

たとえば、

  • 半年後には何ができるようになるのか
  • その仕事ができると給与はどう変わるのか
  • 何年後にどんな仕事を任されるのか
  • 資格を取得すると何が変わるのか
  • 現場経験を積んだ先に管理職以外の道があるのか

こうした情報が具体的でなければ、「とりあえず数年頑張る」という判断を若手に求めることになります。

これは育成というより、先の見えない我慢を求めている状態に近づきます。

フリーランスの魅力は「自由」だけではない

フリーランスへの流出を考えるとき、「自由に働けるから」という安直な考えが多いのも事実であり、企業側から見ると、フリーランスは安定性に欠ける働き方でもありますし、仕事だけではなく、経理や財務部分も考えなければならないことを理解していないと思うのですが、若手からするとビジネスの「厳しさ」をまだ知らない、いいとこどりの魅力があるんです。

また、フリーランスの場合、自分が持っている技術や経験が、どの程度の仕事につながるのかを意識しやすいことですし、会社の中では、給与と仕事の価値が必ずしも直接結びついて見えるとも限りません。

自分の技能を使って仕事を獲得する働き方は「この仕事ができるから、この仕事を受けられる」という関係が分かりやすくなります。

ただ、営業、契約、収入の変動など別の負担があるのですが・・・。

だからといって、「フリーランスにはリスクがある」と説明するだけでは、企業側の問題は解決しませんし、若手が魅力を感じている部分を分解してみる必要があります。

収入の見通しが分かる。自分の技能が評価される。働き方を選べる。成長が実感できる。

もし若手が求めているのがこうした要素なら、企業はその一部を自社の働き方に取り込むことができます。

若手を残すために考えたい3つの考え方

1.「将来上がる」ではなく、上がる条件を見せる

給与について、「経験を積めば上がります」だけでは弱いので、必要なのは、何を身につければ次の段階に進めるのかを具体的にすることです。

  • 「○○の作業を一人で担当できる」
  • 「この資格を取得する」
  • 「後輩の指導ができる」

このような基準と、その先の役割や待遇を対応させてみましょう。

若手にとって重要なのは、会社が将来を保証することではなく、自分が何をすれば、次の段階に進めるのかが分かることで、これは給与だけでなく、育成期間そのものの見え方も変えてくるはずです。

2.技術の成長を「仕事の量」ではなく「できること」で見せる

新人の時期は、仕事を覚えても給与に大きく反映されないことがあります。

そのため「毎日忙しく働いているのに、自分が成長している感じがしない」という状態が起こりやすく、技能の習得を見える形にする方法をとってみます。

  • 入社時には補助だった仕事を、3カ月後には一部担当できる。
  • 半年後には一つの工程を任せられる。
  • さらに経験を積めば、複数の工程を判断しながら進められる。

こうした変化を本人と上司が確認できれば、「ただ働いている時間」と「将来の市場価値につながる経験」を区別しやすくなります。

技術職では、経験そのものが資産になるからこそ、その資産がどれだけ増えているのかを本人に見せる仕組みが重要です。

3.「会社に残る」以外の成長も設計する

ここが、従来型の人材育成で見落とされやすい部分で、企業は当然、自社で長く働いてほしい。

しかし、若手が「会社を辞めないために技術を身につける」と考えるとは限りませんし、「どこでも通用する技術を身につけたい」と考えている人もいます。

そこで、会社にとって都合のよいキャリアだけを提示するのではなく、身につけた技能がどのように広がるのかを示す。

  • 専門職として技術を深める道。
  • 後輩を育てる道。
  • 現場を管理する道。
  • 資格や専門性を生かして別の仕事につなげる道。

選択肢が見えていれば、「この会社に入ったら、この先ずっと同じ仕事」という閉塞感を減らることができますし、皮肉なことに、外へ出る可能性も含めて成長を考えられる環境のほうが、本人が会社に残る理由を作りやすくなる可能性があります。

「引き留める」より「ここにいる理由」を作る

若手の離職を防ぐというと、待遇改善や福利厚生の充実が先に浮かびますし、それらは無視できません。

ただ、今回のような技術職の人材流出を考えるなら、もう一つ見ておきたいものがあります。

それが「技術を身につけるために、今の時間を使う意味が見えるか」で、短期的に稼げる仕事と比較されたとき、企業が「将来性はこちらにあります」と言うだけでは弱い。

  • どんな技術が身につくのか。
  • いつ頃から仕事の幅が広がるのか。
  • その技能が給与や役割にどうつながるのか。
  • そして、その先にどんな選択肢があるのか。

ここまで見えて初めて、若手は「今は大変でも、ここで経験を積む」という判断をしやすくなります。

企業が考えるべきなのは、若手をどう囲い込むかだけではなく、短期的な収入や自由さに負けないくらい、技術を身につける過程そのものに価値を感じられる仕事へ変えていけるか。

熟練技術者を育てるには、何年もかかります。

だからこそ、その何年かを若手本人にも「自分の時間を投資する価値がある」と思ってもらえる設計が必要になります。